第177回 仏 滅 会 報 告

木下 信一

 3月20日に阪神難波線が開通、奈良と神戸が乗り換え無しで行き来出来るようになりました。それを記念して(?)、6月の仏滅会は神戸で開催されました。

 例によっての発送作業のあと、追分フォーラムの報告、そして事件簿セミナーと講演となります。

・事件簿セミナー「入院患者」ー神経内科医としてのシャーロック・ホームズ 渡辺利枝子さん

 本業がお医者さんならではのアプローチ。誤解されることが多いが、精神科と神経内科は全く違う分野。神経内科は頭痛やパーキンソン病、脳梗塞など、中枢・末梢神経系に関する疾患を扱う分野である。神経内科の診断は、昔の電気屋さんの配線作業にも似て、「論理的に詰めてゆけば、最後に一つの解へ辿り着く」という性質を持つ。これは、一つの事象から様々な解釈を引き出す精神分析医の方法論とは好対照である。

 そして、ホームズの方法論は、まさに神経内科の診断法である。ここで、事例として神経内科の診断である「ネガティブ徴候(ある徴候がない、ということが診断の決め手になる)」と「白銀号事件」でのホームズの推理との類似など、いくつかの説得力ある実例が紹介された。

 次に、「入院患者」の依頼人が神経内科医であるという話に続いた。ここで、「ここで言われているカタレプシーとはなにか?」「アミル硝酸塩がカタレプシーに効くのか」等、いくつかの疑問点が出された。

 そして、神経内科医としてのコナン/ドイルについてさまざまな論点から発表があった。最初にドイルの博士論文で扱われた脊髄ろうの病態と疾患の研究史。続いてドイルの履歴と神経内科学の歩み、「入院患者」の事件についての編年的検討。そして、ドイルと同時代の著名な神経内科医についての説明、最後に医学短篇集『ラウンド・ザ・レッドランプ』の各短篇において、神経内科学がどのように書かれているかの検討。

 ホームズ、そしてドイルと、当時発展途上であった神経内科学との関わりがよく解る発表であった。

 休憩、近況報告を挟んで講演。

・講演:シャーロック・ホームズの血統??波瀾に富む英国の歴史 後藤清作さん

 事件簿セミナーとは大きくかわり、こちらはイギリスの民族史。イギリスに対してわれわれが普通に持っている思い込み??イギリスはアングロ=サクソン人の国である、あるいはロンドンという町は古い都市である、等??が、いかに根拠のない誤解であるか、イギリスへの民族流入の歴史から解説される(たとえば、現在のロンドンの町並みは18世紀のものであり、さほど古いわけではない)。

 最初の論点は、イングランドは常にイングランドであったか。ブリトン人の島にローマ人が侵入・支配し、その後ローマの撤退とともにゲルマン民族(アングル人、サクソン人、ジュート人)が侵入する。そしてヴァイキング(デーン人)の侵入があり、最後にノルマン人による征服が起こり、それぞれの過程で民族の混血化が進む。

 次にイングランドとスコットランドとの関係について。最初にこの二つの国がいつ同君連合となり、いつ一つの国として合体したかが説明される。そして、スコットランド人とはどういう民族か、歴史をたどって説明される。先に住み着いたピクト人と後からきたスコット人の統合、その後ヴァイキングの侵攻とその撃退、そしてイングランドの介入と、スコットランドの歴史が民族史として語られた。

 ホームズの舞台であるイギリス、それが必ずしも一枚岩の民族ではないということを知る講演であった。

 仏滅会終了後は、神戸ではおなじみになった焼き鳥「のんちゃん」にて二次会が行われた。

出席者:

田村 朋子 渡辺利枝子 平賀 三郎

出嶋美千子 西岡 知恵 小澤  聰

外海弘美子 福島  賛 宮城 秀夫

後藤五百合 後藤 清作 山口 敬多

木下 信一 眞下 庄作 西浦  寛 

林  庄宏 時田冨士子 長谷川明子 

窪田 和恵

 

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