第178回仏滅会レポート西浦 寛 平成21年8月8日に第178回仏滅会が開かれた。場所は、昨年6月にも開催した重要文化財の中之島中央公会堂、前回は、利用できた部屋が20人定員で窮屈だったが、今回は余裕を見て30人定員の部屋を借りたのでゆったり使えた。 土居好男氏が、この仏滅会のためにWEJ374号で中之島中央公会堂の紹介記事「中之島公会堂物語」を書いていただいていたので、興味をひいたのか、いつもより多くの会員が参加した。 最初の発表は、福島さんによる「数学者モリアーティの限界」 ロンドン市内を縦横に歩いて、ホームズを襲撃する場所を予測する確率を説明し、また、大陸でのホームズの行き先を数学的に予測するのは不可能と結論づけた。 つまり、数学者であるモリアーティ教授は、ベイカー街の下宿を出てオックスフォード街に向かった時の道筋は、予め二項定理を応用していくつかのモデルを計算しておけばある程度予測が可能で、何個所かに部下を配置すれば襲撃は可能だとする。 一方大陸へのホームズの足取りは、いかにモリアーティでも数学では予測不可能、結局組織を放り出してしまい、悪の組織の長・経営者としてはその資格を疑うとするものである。 当時のヨーロッパの政治情勢から、ドイツとイギリスのスパイの暗躍が「最後の事件」の本質であり、モリアーティの評価は美術品収集に懲りすぎて収入を上回り、部下を見捨てて逃亡したのではないかとの新しいユニークな見方を示した。この論旨はおそらくJSHCで初めてのものである。 中間の近況報告では、多くの関西支部会員が、執筆した『ホームズまるわかり事典』の話題に移った。すでに多くの論文を書いている会員ばかりの共著なので、従来のものをリライトしたのかと想像していたが、予想以上に各人が得意分野以外の新しいテーマに積極的に取り組んだ内容とのことであった。発売が待ち遠しいものである。 次の発表は、見吉さんによる「正典の事件現場」である。数多くの事件現場をフィールドワークしている見吉さんならではの発表である。 事件発生年月日は、ベアリング=グールドによるものでなく、フォルソム年代学であった。この中では、ワトソンの思い違いがあったのではないかという年代想定ではなく、正典の記述とおりの年代順であり、大きな食い違いは、「バスカヴィル家の犬」事件が、1900年発生とされているところだ。 前半の事件発生場所は、ロンドン周辺に限られているのに比べ、ホームズの名声がイギリス中に広まるにつれ、後半は、ロンドン市外の事件解決依頼が増えたのではないかというものである。 たしかに1895年以降では、「サセックスの吸血鬼」「悪魔の足」「ブライオリ学校」「ソア橋」「ショスコム荘」「獅子のたてがみ」など郊外での事件が多いような気がする。 発表のあとは、会場近くにある「東洋陶磁美術館」の見学を行った。ここは、総合商社安宅産業が収集していた美術品コレクションを安宅産業倒産後、関西財界が散逸を防ぐために大阪市に寄付した美術品を展示しているものである。 参加者が、公会堂からなかなか出てこないのでどうしたのかと思ったら、公会堂建設費を寄付した岩本栄之助氏の記念室を見学していたらしい。 第一次世界大戦に伴う戦争特需で財産を築いた人物である。WEJの紹介記事がきいて、みな関心をひいたらしい。 ようやく全員で、美術館見学を始め、観客には外国人の姿もあった。グルーナ男爵が愛した「明の青磁の皿」を探してみた。それらしき皿を発見!しかし、写真撮影は禁止されていたのでやむなくがまん。 二次会は、北新地の個室居酒屋で行い、三次会は定番のパブシャーロックホームズに流れた。
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