「第180回仏滅会&関西支部納会」レポート

小 澤  聰

 2009年最後の例会は12月6日(日)午後1時より、恒例どおり大阪梅田のパブ・シャーロックホームズで開催されました。

 最初に平賀三郎さんから「平成21年度関西支部事業報告」がありました。この日の仏滅会180回を数えたこと、支部会員多数の共著として『ホームズまるわかり事典』の出版等、2009年も十大ニュースにおさまりきらない、多彩な活動が報告されました。続いて、昨年より開始された関西支部運営功労者に対する、記念品の贈呈がありました。紙幅の都合により詳細はWEJ379号をご参照ください。

 次にSHの部屋のある神戸英国館の行事紹介が平賀さんと山口敬多さんからありました。来年もホームズにちなんだパイプコンテストや、ホームズそっくりさんコンテストなど、楽しい企画が予定されています。特にホームズ映画の試写会を二次会として2月21日に仏滅会を開くのは空前絶後と言っていいでしょう。また山口さん手作りのカレンダーや封筒がプレゼントされました。新作ホームズが映画やヴィクトリア女王の映画のポスターも入手して配られました。

 研究発表は、関西支部古参会員で弁護士の大川一夫さんによる、「シャーロック・ホームズと京大ミステリー研の世界??綾辻行人・法月倫太郎・小野不由美はいかにして生まれたか」と題しての発表です。大川さんの弁護士としてのご活躍はWEJ376号を見ていただくとして、今回は新本格ミステリー草創期を、リアルタイムで体験してこられたもう一つの大川さんの姿が熱っぽく語られました。

 ホームズに関しては「ポプラ社」世代だという大川さんは、当時の社会派一辺倒のミステリー界の風潮に飽き足らず、1974年に京大ミステリー研究会を創設され、その後ミス研には10年間在され、綾辻行人をはじめとした新本格派の旗手を生み出した産婆役を果たしてこられました。特に、綾辻の『十角館の殺人』を京大ミス研の真髄と評する大川氏が、同書の上梓されたときの嬉しさを語る時の口調には、愛弟子綾辻への思いが溢れていました。

 京大ミス研では単に本格派への共感のみならず、同人誌『蒼鴉の城』を発行し実作にも力を入れていましたが、その一環として犯人当てクイズを会員交代で毎号掲載するというユニークな企画がありました。第3回犯人あてクイズとして大川さんが掲載した『ナイト捜し』という作品は、当時鬼のようなと称されたメンバー全員が引っかかり、だれも正答できなかったという力作でした。仏滅会の資料として問題編と回答編が提供されましたので、出席者は思わぬ帰宅後の楽しみができました。他にも大学外にも開かれた会としての京大ミス研の様々なお話が、まさに青春そのものとして語られ興味は尽きませんでした。

 休憩とドリンクサービスの後で、出席者の自己紹介がありました。今回は初参加者が3名ありましたが、飛び入りでお母さんと中学生の親子ペアもあり、わがSH業界も将来有望な思いがいたしました。参加者からお菓子の差入れもいただきました。

 後半再開。甲南大学の中島俊郎教授の講演「なぜホームズはライヘンバッハの滝へ落ちたのか??アルプスをめぐる想像力」です。

 中島先生は長浜大会をはじめ何度も講演をお願いしているおなじみですが、一昨年よりルイス・キャロル研究のため1年間オックスフォードに留学しておられました。今回はなぜドイルがホームズを墜落させるにあたって、ロンドン塔でもこと足りるのに、わざわざアルプスくんだりまで連れて行ったのかという疑問から出発し、18世紀のトマス・グレイ以来の英国文学史に占めるアルプスの位置づけにそくした考察を展開されました。

 古典的な田園の優美な風景に対して、アルプスはイギリスには絶対に存在しない高山の自然美として憧憬されたこと。更にはその峻険さが神聖なものと見做されるという、古典的な美意識からの転換としての先行する英文学者の観念の帰結として、ホームズはいわばアルプス巡礼とも言うべきライヘンバッハへの旅をしたということでした。

 また、滝・瀑布も英国にはなくその水の落下のイメージは、ウィンパーの『マッターホルン登攀記』の初登頂後のメンバーの北壁への墜死という有名な記述とあいまって、『最後の事件』のモリアーティとホームズの滝からの墜落の下敷きとして作用したというというものであります。

 以上の中島先生の考察には、各種の英国人のアルプス進出の図版の解説や、ピカデリーの真ん中で6年間続いたアルバート・スミスによるモンブラン登攀ショーのエピソードの紹介などが盛り込まれ、興味深くまた楽しい講演でありました。

 仏滅会閉会後はこれも恒例の記念撮影に続き、納会すなわち公式二次会となり、乾杯に続いて本日の講師でまる中島先生や大川さんを囲んでそこここで談笑の輪が広がりました。しかし、楽しい 時間はあっという間に過ぎ、来年の再会を約して参会者は三々五々師走の街に散っていったのでありました。

[参加者] 

中島 俊郎  大川 一夫  田村 智子 

渡辺利枝子  川島 三次  平賀 三郎 

翠川こかげ   三宅 俊行   出嶋 美千子 

西岡 知恵    見吉 時枝  小澤  聰 

外海弘美子   福島  賛   宮城 秀夫 

宇治丸明美   外海  靖規  木下 信一

山口  敬多  久武 正則   眞下庄作

西浦   寛   津田 雅之   林  庄宏

窪田  和恵 浜崎 千恵子  堀本  和子

堀本  日明

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