6月仏滅会報告

渡辺利枝子

 古都奈良は正倉院に聖武天皇とホームズにもゆかりの地である。東京も京都もホームズものには出てこない。奈良はうんといばってもいいと思う。ただ、残念なのは、「正倉院」だの「聖武天皇」だのという言葉を発したのはホームズでもワトスンでもなく悪役のグルーナ男爵だってことだ。

 平成22年6月5日土曜日、第183回仏滅会が奈良婦人会館で開催された。奈良婦人会館は、心配する人もいたが男性も使える。それよりも「飲食禁止」と「4時30分まで」がネックだったが、どちらも5時までにあとを綺麗にしてくれればOKのよう。近鉄奈良駅からも近く、仏滅会の前に午前中散策したり、一泊して観光するのもいいのだが、正倉院は土日は見られない。宮内庁管轄、お役所が休みの日は閉まっている。

今回の発表は外海靖規さんの「シャーロック・ホームズの能力観」と林庄宏さんの「シャーロック・ホームズという名前」。

 さて、外海さんの「シャーロック・ホームズの能力観」である。19世紀初め頃から人間の読み方が発展していく。初めは伝統的な観相学や骨相学であったが、犯罪人類学や知能や性格検査などに発展し、優生学等も生み出した。ホームズの能力観もこの流れに沿ったものであり、「否定していった結果正しいものが残る」ことや間違いや失敗から学ぶ態度もこの時代の進化論的認識論などから説明できるという。筆者にはホームズの能力観が遺伝決定論なら、ワトスンのそれは環境決定論ぽく、こちらはヒーローも修行して能力を伸ばす日本人の能力観と近いものがあるという話が興味深かった。図版資料も大変充実したものだった。

 その後、近況報告、追分フォーラム報告などあって、最後に林さんの「シャーロック・ホームズという名前」の発表に。こちらも豊富な文献に裏打ちされた研究であった。'Sherlock'とは原案であった'Sherrinford'とともに'金髪'を連想させる名前だという。ホームズの髪は黒いのに考えてみれば不思議な話である。そのほかHolmes、Watson、Mycroft、Moriarty、Hudsonなどにも考察を広げておられた。聖典に登場する女性名の1875年1900年1925年英国・ウェールズにおけるランキングなる労作もさりげなく資料に入っている。不動の一位はもちろんMaryであり、聖典の登場人物でも8人いる。が、1875年には珍しい名前であったIreneが1925年にはなんと聖典女性名中堂々の二位!質問タイムが取れなかったため、二次会への道すがら、「ホームズもののおかげでIreneのランキングがあがったのではないか?」と質問してみたのであるが、「僕も思ったけどそこまでの話はできない」とのことで、すぐ話を作りたがる筆者などとは違ってさすがに林さんは学究的だなぁとまたしても尊敬の念を深めたのであった。

参加者氏名

渡辺利枝子  平賀 三郎  翠川こかげ

三宅 俊行  出嶋美千子  西岡 知恵

見吉 時枝  小澤  聰  外海弘美子

外海 靖規  福島  賛  宮城 秀夫

山口 敬多  山岡  斉  眞下 庄作

西浦  寛  林  庄宏  長谷川明子

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