第195回京都仏滅会報告

増田 健太

 4月8日、毎年恒例となりつつある京都春の仏滅会であるが、本年も第195回仏滅会が京都大学百周年時計台記念館にて開催された。昨年と同様、春のキャンパスは新入生歓迎の色濃く各部活動の看板だけでなく、勧誘チラシが配布されていた。京都大学時計台は、大正14年(1925年)に完成した、京大キャンパスを代表する建物の一つである。ゼツェッション的意匠を随所に留め、その外観は格調高い風格を備え、歴史的にも貴重な存在となっている。

 幹事の自己紹介のあと、昨年も同じ京都仏滅会にてご発表いただいた後藤清作先生から「古代先進文化・文明の窓ケント州」というタイトルにてご講演をいただいた。シャーロック・ホームズ物語を愉しむにあたっての、イギリスの地理に関するお話であった。ケント州は、美しい州の代表であり、回覧した写真によっても当時が推察された。シャーロック・ホームズ物語にてケント州が登場するのは、

Golden Pince-Nez

Abbey Grange

Final Problem

である。Final Problemの中でこのような会話がある。

"We shall get out at Canterbury."

"And then?"

"Well, then we must make a cross-country journey to Newhaven, and so over to Dieppe. Moriarty will again do what I should do."

 ここで、登場するCanterburyとNewhavenはいずれもケント州の地名である。非常に緊迫した場面を思い描きながら、後藤先生から配布された地図を眺め、臨場感あふれるご講演であった。

 引き続き、京大推理小説研究会出身の気鋭作家である森川智喜先生から「誰がマザリンの宝石を書いたか」という題でご発表いただいた。多くのホームズ物語はワトスン筆によるものだが、Mazarine Stoneは三人称による視点で描かれている。その筆者をさぐろうという研究であった。密室劇の中のHolmes、Watson、Billy、Sylvius、Samのいずれかなのか、痛快な解答を導き出されたが、いずれ論文として発表されることを願い、ここでは明言を避けたい。

 付録として「ホームズのライヴァル」マイベストテンが発表された。1890年から1910年に活躍した名探偵を、ソーンダイク博士の「おちぶれた紳士のロマンス」から、隅の老人の「隅の老人最後の事件」まで10編をリストアップし、「研究の糧として手にとってみたら」と結ばれた。もう一つのオマケは「ホームズ作品語呂あわせ」。短編56編の題名を発表順に覚えるもの、シャーロキアンとはホームズ研究で遊ぶものだという事を実践されていました。

 各参加者の近況報告・情報交換の後、理化学研究所研究員である橋本幸士先生から「イギリスに半年住んで」という演題で発表いただいた。サバティカルでのイギリス滞在について、写真を交えてお話しいただいた。ケンブリッジ大学の研究所の教授も大のホームズファンだということを知り話が弾んだということで、ホームズのつなぐ人の輪の温かさを感じることができた。また、サバティカルの残りの半年はカナダのトロントに滞在され、図書館にホームズ専用部屋があり、Beeton's Christmas Annualに出会われたそうである。ホームズのつなぐ人の輪の広さは国境を越えると、感じ入った。

 橋本先生の学問研究者としての姿と、欧米の知識人が人生のゆとりとしてホームズに親しんでいる姿が良くわかりました。

 三題のご発表をいただき、充実した仏滅会を開催できたことを、感謝したい。終了後、同じ建物のレストランで夕食会を開いて解散しました。

参加者は次のとおりです。

平賀 三郎  翠川こかげ  西岡 知恵

橋本 幸士  森田由紀子  増田 健太

後藤五百合  後藤 清作  山口 敬多

久武 正則 眞下 庄作 西浦  寛

長谷川明子 森川 智喜 藤原幸栄子

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