第210回奈良仏滅会報告

渡辺利枝子

 平成26年6月7日土曜日は奈良婦人会館にて第210回仏滅会であった。季節柄、この日も朝は雨、昼からはあがったが、いつもよりも参加者は少なかった。しかし、関東より河野さん、新野さんのお二人を迎え、充実した例会であったと思う。

 「ウェストエンド・ジャーナル」の発送作業を終え、真下庄作さんの「『ストランド・マガジン』の挿絵221Bの謎を追う(1)」が始まった。追分フォーラムでの発表「ハドスン夫人の謎を追う」から思いつかれたテーマだそうだ。真下さんは、鈴木利男さんの年代研究順に221Bを描いた挿絵をすべてピックアップしてくださった。今回の発表は『最後の事件』までだが、ホームズの化学実験や射撃練習、タバコの煙に放火などさまざまな受難にあった221Bの内装はホームズの金払いがよくなったせいもあって、次々に改装がおこなわれていることが挿絵からもわかる。A3用紙2枚に細かい字でびっちり、問題点や注釈まで詰め込んだレジュメはこれだけでいくつもの研究の資料となりそうな充実度である。次回発表がますます楽しみだ。

 ティブレーク、近況報告の後、平賀三郎さんから追分フォーラム報告があった。今回発表の真下さん、中尾さんのどちらもフォーラムでも研究発表されており頭が下がるのであった。

 そのあと本日二つ目の発表、中尾真理さんの「シャーロック・ホームズと変装−探偵に変装は必要か−」となった。まず探偵小説という分野におけるコナン=ドイルの功績、ミステリ黄金時代のホームズの後継者、コナン=ドイルと同時代作家などわかりやすく解説してくださった。

 私は初めて聞いたのだが、「セクストン・ブレイク」シリーズが興味深かった。ハル・メレディスという作家が1893年に書き始め、ヒットしたので、200人以上の作家が80年以上書きつないだ短編は4000編以上になるという。「ストランド・マガジン」より安い「ハーフ・ペニー・マーベル」という雑誌に連載され、「貧乏人のシャーロック・ホームズ」と呼ばれたのだそうだ。

 さて、黄金期の探偵たちは、ホームズの頭脳、芸術家気質、紳士、スポーツマンであることなどそれぞれ受け継いだが、変装はほとんど継承していない。例外的に江戸川乱歩の作品には「変装」が存在するが、探偵に変装は必要だろうか?変装が登場するとミステリより冒険小説めいてしまう。ホームズ物語ではホームズのみならず、犯人や依頼者も変装する。14編もの作品に変装が出てくるという。中尾さんは「唇のねじれた男」ネヴィル・セントクレアの経歴に注目する。彼は旅役者の一座でメイキャップ術を覚えたが、ホームズもこのような経歴があったのではないかということだ。当時の名優ヘンリー・アーヴィングが評判を取ったシャイロックは変装と呼べるほどのメイキャップである。彼がシャイロックを演じたのは、『四つの署名』でホームズが待ち合わせ場所に指定したライシーアム座であり、ホームズは機会さえあれば芝居がかった演出で謎を解説する根っからの芝居好きでもあるのだし。

 さて、例会もお開きとなり、猿沢池のほとりをめぐりつつ、二次会会場へ向かった。例会出席者は多くはなかったものの二次会参加率は高い。仕事を終えて駆けつけた見吉さんも加わり、歓談が盛り上がったが、シャーロッキアン・ウォッチャーを自認する翠川さんが、ハドスン夫人について熱く語ってくださり、是非発表を聞きたいと皆々思った。

 三次会は恒例化したイングリッシュパブへ向かい、私はまたホームズカクテルを頼んだ。チョコミント味は『シャーロック学園』のホームズ少年のイメージ。彼はまだ未成年なのでこれを飲む訳には行きませんけどね。

〔出席者〕

  渡辺利枝子  河野眞砂子  平賀 三郎

  翠川こかげ  西岡 知恵  見吉 時枝

  外海弘美子  新野 英男  福島  賛

  中尾 真理  眞下 庄作  西浦  寛

戻る

inserted by FC2 system