第234回奈良仏滅会報告

渡辺利枝子

 

10月14日朝はあいにくの雨模様であった。以前とは違い今回のエルトピア奈良は足場が悪く、それでなくても奈良は遠いわけで幹事としては参加者の数が気になる。近鉄とJRの奈良駅どちらからも徒歩では遠い。近鉄奈良駅から市内循環内回りのバスに乗る。JR奈良駅を過ぎ、瓦町停留所で降りるとエルトピア奈良の前だ。あいにく雨がパラパラ降ってきた。

使用料を払って鍵を預かるが。開場は12時45分と言われ、15分以上時間つぶしをしなくてはならない。雨でなければ外の手すりに持たれて待つのだがと迷っていると今日の発表者でもある長谷川さんがいらっしゃった。足の骨折の中わざわざ来られたのに、どうしたものかと思案しているところへと副幹事の中山さんから連絡。なんと3階で待っていると。中山さん早い、ありがとうございます。

というわけで、部屋を開け、発送に取り掛かる。シール切手なので、過程が一つ減る感じ、ノウハウの積み重ねで手際も良くなっていると思う。

さて、多くはないが、天気と場所にしては順調にメンバーが集まり、開会する。二次会会場が遠いため、去年は良い気候の中20分ほどぶらぶら歩いたのだが、市内循環バス外回りで近鉄奈良駅まで帰るか、タクシーを利用するかを提案しておく。まず一つ目の発表、ロンドンホームズ協会会員の眞下庄作さんから、「ホームズ《緋色の研究》の誕生・裏秘話(1859〜87)」。今まで聖典の描写など細かに拾って発表されてきた眞下さん、今回はドイリアンとしてコナン=ドイルについての研究である。書簡集を中心に他の英文資料もあたり、『緋色の研究』発表まで、A3用紙二枚裏表にびっちり。眞下さんのレジュメはいつも永久保存版だ。書簡からコナン=ドイルの人となりが伝わってくる。ホームズで人気作家となったこの先の発表が今から楽しみである。

質疑応答では、コナン=ドイルの同胞が第一子と末っ子とでは30歳も違い当時の女の人って大変だなという感想も出ていた。やはり末子がドイル家下宿人ウォラー博士の名をもらっていることについてどうお考えかというのが出て、真下さんも不倫は否定的だし、英文学専門の先生方もこの時代の家庭で家庭内不倫無理、私もやましかったらあからさまに名前をもらうことはしないのではないかと出席者はみな否定的であった。

ティブレイク、その後、近況報告、情報交換となった。いつものイギリス系書籍、ホームズを材料に作られた作品、ホームズ関係のグッズなどのほか、ノーベル賞受賞者カズオ・イシグロが子供の頃ホームズ中毒であった話題が盛り上がった。中尾真理さんによると『私たちが孤児だったころ』は探偵小説仕立ての上にホームズも登場するので特におすすめだそうである。この小説については以前中尾さんが仏滅会発表の折に紹介されていたのが思い出される。林さんによるとインタビューに出て来ていたビクトリア朝風のしゃべり方、“Pray be seated.”はホームズ物語本文にはないそうだ。資料は一次資料にあたらなければならないと改めて感じた。

第2の発表は長谷川明子さん「ホームズ物語の言語学的考察:言語の抽象性と具体性」である。意外なことにフランス語は語彙数が少ないのだそうである。語彙数が少ないと抽象的となるにもかかわらず分析的で明晰であるという。それはフランス語を使う人々の生き方、確実なコミュニケーションを取る努力におってできてきた。その実例として、ホームズ物語とサガンの『悲しみよこんにちは』の仏語・英語・日本語をあげて説明していかれた。高度な内容であったため、筆者にはうまくまとめられていないが、フランス人のエスプリというものはそういうことかと腑に落ちた。

 幸い、終了時雨は降っておらず、二次会参加組はバスと徒歩に別れ、二次会会場に向かった。

 

 

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