第236回大阪仏滅会報告

 小澤 聰

今回の仏滅会の会場は大阪駅の北側の『梅田エステートビル』の会議室です。阪急梅田駅の北口を出てすぐ、田村耕三会員のお世話で交通至便の会場が利用でき、連日の酷寒の日々で、氷河時代が再来かと思わせるほどのお天気でしたが、結構参加者もそろい幹事としては、胸をなでおろした次第でした。 

最初の発表は外海靖規会員の「トリヴァは何しに日本へ? グロリア・スコット号を深読みする」です。ホームズはトリヴァ老が日本に行ったことを見破っていますが、その根拠は明らかにしていない。

旧名ジェイムズ・アーミテイジの刺青には言及しています。ホームズは刺青に関してはジェイベズ・ウィルソンが中国でいれたとして刺青については蘊蓄をかたむけているが、中国では儒教の影響で、入れ墨は市民権を持たなかったので、プロの彫り師はいなかったはず。

一方、英国貴族は日本みやげとして刺青をいれるのが流行した。アルフレッド王子をはじめとして、ロシア皇太子のニコライ二世も来日し刺青をしている。日本には世界的に有名な彫り師の彫千代がいた。彫千代の刺青見本にはイニシャルなどの見本も残っている。ゆえにホームズはトリヴァ氏が日本にいたと判断したのではないか。

次いでトリヴァ氏はなぜ日本に来たのか。記載にはないがずばり金儲けだ!

オーストラリアのゴールドラッシュで資金を蓄積したトリヴァ氏は元銀行員の嗅覚で、日本に目をつけた。時あたかも幕府が不本意ながら横浜開港をした。幕閣官僚の国際金融の無知につけ込んで金銀の交換比率と洋銀と日本銀貨の含有率の差を利用して、蓄財に励んだのではないか。ハゲタカ個人投資家恐るべし。

にもトリヴァ氏の耳を見てホームズはボクシングの経験を指摘したが、これは実は日本で学んだ柔道耳ではないか、等々面白い脱線連想が次々とびだして、質疑応答でも大いに楽しんだものです。

 先行研究で見逃している事項や、適当かどうかを確実な資料や当時の社会状況に基づいて検討すると、意見交換も充実・発展する、これぞ仏滅会のだいご味です。

 途中のティーブレイクののち、出席者の近況報告になりました。今はやりの断捨離の話から、増えすぎた蔵書の処分について、いろんな対策を試行しているという話が後を絶たず、皆様が本の処分には手を焼いている実情が窺えました。

 次の発表は、横浜からお越しいただいた太田隆会員の「シャーロック・ホームズの演繹学と総合」です。太田氏は経済学が専門で、『シャーロック・ホームズの経済学』他を上梓されていますが、WEJやホームズ紀要に、経済学・科学哲学・分類学・ゲーム理論等々の多様な切り口でホームズを論じておられる碩学です。

今回は論理学の視点から、ホームズの推理法が論理学の王道である演繹法に基づいていることを説明していただきました。

 しかし、ホームズの推理・推論はかなり帰納論理に基づいていることも、聖典からの例証で指摘されました。

これは一体どうしたことか。これを別の補助線として、分析と総合という手続きを経て、謎の解決に至った、ということです。これは、幹事の妄見からすれば弁証法的論理のアナロジーではないかと一瞬思えるほどでした。さらに太田会員は最後に類比という方法を予告しておられます。文学作品の基本要素としてのメタファーをいずれは標的とされるのではないかと、今後を期待いたします。

 閉会後は相棒幹事の田村智子さんに手配していただいた、近くのビアホールに移動し、和気あいあいと楽しい夕食会となり、氷河時代も吹き飛ぶひと時を過ごすこととなりました。

  

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