第240回 奈良仏滅会報告

渡辺利枝子

 

台風が近づいたり、午前中土砂降りだったり、なんやかやあったが、結局のところ10月6日の午後1時からの第240回仏滅会はいい天気であった。今年は近鉄奈良駅に近い奈良県立女性センターが取れた。東向商店街の中にあり、毎年二次会をする中華料理店の向かいである。隣は重文指定を受けた寺院様式のキリスト教教会で、会場の窓からベストアングルで眺めることができた。

 部屋に入れてもらえるのが5分前ということで皆うろうろしたが、会報発送も順調に終わり、第1発表は福島章さんの「銀星号を追って」である。「事件は(事実をもとにした)フィクションである!」と大胆な宣言から始まった。ホームズは現実には別のもめ事を解決したのだが、それは隠して、ワトソンは小説に仕立て上げた。

そうでないとツッコミどころが多過ぎる。ウィンチェスターには近代的な競馬場はないという先行研究を踏まえ、本当の場所はどこか?プルマン・カー、クラパム・ジャンクションから二本の鉄道に絞り、候補競馬場を絞って行く。原文の「駅からは街のbeyondにある」競馬場はグッドウッド競馬場、その常連はのちのエドワード7世とすれば、バルモラル公爵の正体は? Silver Blazeの先祖ancestor(祖父母以前)Somomy はIsonomyの誤植とされているが、Thormanbyではなかろうか、とすれば、馬主はポートランド公爵。ロス大佐はこの人か?人名も当然仮名であろうから、ロス大佐の本名も探る。鉄道の路線やプルマン車など図版資料も多く、大変楽しい発表であった。

ティブレイクをはさんで、近況報告。逃走犯で有名になった富田林警察とのやりとり体験談(ニュースを聞いて納得のゆるさ)や関連図書の紹介など、いつもの通りバラエティに富んでいたが、平賀三郎さんより、ここだけの話ではもったいないので、是非とも「ウエストエンド・ジャーナル」へ投稿するか、そこまででないものもホームページの談話室に書き込んで欲しいとの提案がなされた。確かに印刷物にしたり、検索できる形にしておく値打ちがあると思う。

二つ目の発表は長谷川明子さんの「ホームズ物語とフランス」であった。前半はホームズ譚の中のフランスをピックアップして解説、後半はルコックからメグレ警視までのフランスミステリ史を

語ってくださった。

指摘されてみるとホームズは決め台詞によくフランス語を使っており、祖母がフランス人ということはいわゆるクォーターである。大空白期を語るとき「フランスに帰って来てからは」と表現しているという。ホームズにけなされているルコックだが、コナン・ドイルが読んで、ホームズが創作されたのだ。ルコックからあともフランスではホームズ型の天才的探偵は見当たらず努力型の警官が探偵役を務める小説が続いている。その最大の人物がメグレ警視、心理描写に優れ、映像化もジャン・ギャバンを初めとしていくつかある。原文と訳文を並べ、解説してもらうと私もメグレのシリーズを読みたくなった。

お開きのあと、すぐそばの興福寺金堂が明日落慶なので、皆で見物に行った。鴟尾は保護材で覆われており、これはこれで貴重な眺めだったと思う。竹柵越しに式典のためにたくさんの椅子が並んでいた。翌日もお日柄もよく盛大な式典が催されたと聞く。二次会はいつもの中華料理店で今回はアラカルトとなったが、量的にちょうどよかった。ついでに色々見られる奈良例会を来年もよろしくお願いします。

 

 

 

 

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