第242回仏滅会報告

小澤 聰

平成31年初の仏滅会は昨年の2月同様、副幹事の田村智子さんのご尽力で梅田のエステートビルで開催された。当日は節分(旧暦大晦日)で、会場近くの寿司屋は、恵方巻きの貼り紙が出ていた。

WEJ496号の発送作業ののち開会。最初の発表は古参会員の林庄宏氏の「The Dancing Man」ノート。踊る人形の暗号に関する考察を中心に、ストーリーの数々の疑問箇所を林氏の細緻な推論と薀蓄を連発された。

踊る人形は英語アルファベットの単純置換型暗号で、旗は単語の区切りに使われている。ホームズは出現頻度の高いアルファベットのEの人形を確定し、順次他の人形を解いていく。しかし、最初に解読したNEVERについても、□E□E□の組み合わせからNVRを推定したとしても、電子辞書やクロスワード本の回答の資料では160くらいの語例が見られる。ELSIEやCOMEも数十の単語の検討が必要となる。さらに人形自体もStrand、Oxford、John Murray、Collier’s Weeklyの各版では形が違っており、ストランド版が一番破綻が多く、オクスフォード版では独自の人形を創作している。

他にも、危険を知らせるのなら何故ヒルトンに電報を打たなかったのか? それなら翌日の事件は回避できたはずだ。ドイルが事件をブラディに仕立てたかったのかホームズの解読が正しかったとの結論ありきの設定か。そもそも、人形で文章を綴る必要がどこにあるのか等々。林氏の疑問の指摘で質疑応が白熱しました。 

 続いて篤志家からの寄贈図書の申込案内や、新春紙上オークションの結果発表があり、出席した落札者には落札本が引き渡された。次いでティーブレイクと会員の近況報告都情報交換の時間に進み、後半の発表となった。

 オクスフォードの古本屋と神戸の風物をこよなく愛する、中島教授の「新春ホームズ3題噺」で、独文学者の池内紀のホームズに関するエッセイを導入として長沼弘毅に移り、さらにバリツの考察、そしてバリツの文化的影響へと博覧強記なお噺が続く。長沼弘毅は大蔵官僚としては毀誉褒貶それぞれだが、宇野浩二に師事した文人として推理文壇に関係し、シャーロッキアンとして英米の研究を凌駕するところまで迫った人である。その長沼はバリツの考察で、柔術であると言明してる。

 ここから、バリツとバーティツの考察に移る。英国人バートン=ライトは神戸のハンター商会に勤務のかたわら神伝不動流柔術と講道館柔道を習得し、帰英の後、護身術バーティツを創始し、「The Bartitsu Club」を設立した。バートンズ・ジュウジュツの意味での命名したのであろう。1901年のタイムズ(ロンドン)紙のティボリ劇場での演武ショ−の紹介記事で、BartitsuをBaritsuと誤記されている。1902年には全英を巡回興業した。そして、1903年の「空き家の冒険」発表となる。その後ばーティツクラブが衰退し、バートン自身でバーティツクラブが閉鎖され、1951年のライト死去により人々の記憶から消えた。あとは皆さま、お察しを……。

バリツの文化的影響をというところで、報告の紙幅が尽きた。あとはWEJか紀要でご両所ともによろしくご発表ください。12月仏滅会に続いて、中島教授の司会でビンゴゲーム開催。歓声とため息の中で楽しく閉会となった。

懇親会(友引会)は田村副幹事の誘導で隣のビルの「ビアブルグ」で冬のビールの美味を満喫した。かくて、旧暦の大晦日は鬼は外・福は内の声とともに暮れて行ったのでありました。

 

 

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