6月の話題

シャーロック・ホームズ紀要が22号を数える

JSHCの会則には、会の目的として
 1 シャーロック・ホームズ及びその関連事項についての研究を推し進めること

 2 シャーロック・ホームズを愛する者の親睦をはかることの2項目が掲げられている。第2項は比較的容易に実現できるが第1項はなかなか知恵を要する。

 関西支部では、この二大目標を実践しており、毎回の仏滅会でホームズ研究の成果が次々と発表されている。また関西支部会員をはじめJSHC会員有志が『シャーロック・ホームズ紀要』を編集発行している。最新号は2015年12月26日付で発行され、WEJ462号にもその内容が次のとおり紹介されている。

 査読・編集・印刷の都合上発行が新年にずれ込んでいた2015年版シャーロック・ホームズ紀要が、2015年12月26日付で発行されました。ホームズクラブ関西支部第221回記念仏滅会にて一般にも販売されました。今回は前年よりも多い、7編の研究成果が掲載されています。バラエティーに富んだ内容でお楽しみいただけるものと思います。

 最初は第221回仏滅会の実行委員長も務めた大川一夫氏の「日本民法とシャーロック」です。仏滅会で口頭発表されたもので、明治以来変わっていなかった民法が改正されることをきっかけに、新たな知見が披露されます。日本民法の父と称される穂積陳重博士のロンドン留学中の日記から現役の弁護士である強みを生かした大胆な仮説を提起しており、ほぼドイツ民法を下敷きにした日本民法の中に、わずかに存在するイギリス民法の影響と、日本民法の父とホームズが大英博物館で出会ったとする、カール・マルクスとホームズが出会った説にも対比される新しい研究です。

 2番目の佐々木一仁氏の「ホームズとワトスンの資産管理」は、ホームズ学を語る上では欠かせないにも関わらず、手を付ける人が少ない経済学に関する論文です。19世紀当時の世界経済をはじめ、イギリスの金融事情、小切手の仕組みなど丁寧に解説されている力作です。正典には銀行や小切手がしばしば登場します。ワトソンやホームズの取引銀行などについても詳しく、正典を読み直す際の副読本としてみてはいかがでしょうか。

 3番目は、眞下庄作氏による「スコットランド・ヤードとホームズの事件簿1」追分フォーラムで口頭発表された内容をまとめたものです。今回も、ライフワークである警察関連のデータ収集については他に追随を許さない精密さです。スコットランド・ヤード黎明期からヴィクトリア時代の組織改革、ホームズとワトスンの同居からワトスンの最初の結婚を経て、《最後の事件》までの警察事情を丹念に追っています。まだ第1弾とのことですので、続きが気になるところです。

 4番目は太田隆氏の「ホームズの分類学」。ワトソンのリストや、ホームズ自身が作っていた新聞の切り抜きによる備忘録が想起されますが、分類学の観点から事件簿を点検する独自の試みが興味深い論文です。ホームズ学に限らず、論文や読み物には常に新しい考え方が要求されますが、その要求に十分答える内容でしょう。

 5番目に福島賛氏の「白面の兵士はどこにいる?」です。不人気作品でもホームズが出かけて行った場所を特定すれば何か新しい知見が得られるのではないか。英国の地方への魅力的な小旅行に出発する気分も生じると思われます。作品中の手掛かりに基づく実際の地図や路線図が添えられている。

 6番目の後藤清作氏の「『ボートの3人男』とテムズ川を遡る」は、やはり仏滅会での口頭発表をまとめたものです。ホームズもよく通ったレディング周辺など、テムズ川上流の魅力を、英国屈指のユーモア小説を指標に存分に語った論文です。実際に作者が訪れた場所などの紹介は大変に想像力を掻き立てられることでしょう。小説の舞台がほぼそのまま残っていて、旅することができるのも、英国の大きな魅力のひとつです。

 最後は平賀三郎氏による、「軽井沢庚申塚の研究」です。追分宿の歴史にふれ、軽井沢にいかにしてホームズ像が建てられ、その周辺に並んでいる石碑はどのようないわれがあるものなのか。本書を片手に追分フォーラムに参加されると、また新たな発見があるかもしれません。並んでいる石碑石仏の内で人々を救済した馬頭観音とホームズの行動パターンについて論じています。今年も軽井沢にて魅力的な講師陣で追分フォーラムが開校されます。その際はガイドブックとしてお役に立つだけではなく、江戸時代の庶民を救済した馬頭観音とロンドンの庶民の悩みを解決したホームズを対比させています。

 購読希望者は、頒価1500円と送料190円、計1690円か、または入会金800円と年会費1600円を郵便局から次の口座に払い込んでください。

口座番号 00960-0-130196

加入者名 日本シャーロック・ホームズ研究委員会

 また本年は関西支部35周年、明年は《緋色の研究》でホームズが世に出て130年、目下紀要の原稿を募集中である。

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