9月の話題

ホームズもワトソンも経験しなかった災害

 

 本年は、日本列島にとって、地震、台風による暴風雨、大雨による水害など例年にない規模での自然災害に見舞われた。

 神戸・淡路、東日本、熊本など大地震、記憶も消えないままで、北海道で大地震に見舞われ、山崩れが続発して大きな被害が出た。。ホームズもワトソンも経験したことのなかった災害である。発電所も停止し、北海道全土が停電した

 日本と英国は良く似ているとされる。いずれも大陸のすぐ近くに位置する島国で、長い歴史を持ち、他国に支配されたこともない。独自の文化を伝え、産業も発達し、大きな経済力も有している。

 しかし全く異なる面も多数ある。ことに自然環境では全く異なっている。

 先ず火山。英国には火山はなく、明治に東大に赴任した英国人お雇い教授のミルンは、浅間崋山の話を聞いて実地に登山し、活火山の噴火口を観測して、学界誌に投稿した。初めて見る火山であったようだ。日本には全国に火山が分布しており、近年でも雲仙、御岳などの活動は記憶に新しい。最近も霧島、白根、西の島新島、沖の永良部島などで活発な火山活動が続いている。西の島は深い太平洋の底にそびえる大きな火山で、その頂上だけが海上に顔を出しているものである。相次ぐ噴火で火口から溶岩が流れ出して海を埋め島の面積は何倍にもなった。ホームズやワトソンは想像もしていない現象である。

 英国には石を積み上げて築いた古城や大寺院、大教会が数多く残っている。これも大地震がない国だからのこそ、日本では堅固な熊本城の石垣も崩れるような大地震に見舞われる。英国だからこそ残っているのであろう。「ワトソン君、この礼拝堂は日本ならとっくにくずれているだろうよ」といったホームズのセリフは事件簿にみられない。

 英国には高い山もない。のどかな丘陵が続き、ヒツジや牛がのんびりと草を食む。最高峰はスコットランドのベンネビスで標高1344mである。日本の最高峰富士山は3774m、山頂といってもその3合目か4合目辺りになるだろう。日本では北アルプスや南アルプスには3000mの高い峰が並ぶ山国である。こんな景色は英国では観られない。○○Fall の標識があったので寄ってみたが、縦に落ちる滝ではなく、斜めに流れる急流でしかなかった。それだけに英国人がスイスを訪れ、氷雪を抱く峰や高い滝、切り立った岩壁を見て魅せられたとしても不思議ではない。氷壁のマッターホルンの大岩壁の初登頂を競い、アルぴニズムが興り、英国人がアルプスの開発に果たした役割は大きい。

 コナン=ドイルもスイス旅行中にライヘンバッハ滝に立ち寄り、英国には見られない絶景を見てホームズ最後の地にしようと考えたのも良く解る。もし日本に来て那智の滝か華厳の滝を見物しておれば、《ホームズ最後の事件》は日本が舞台になったかも知れない。

 降雨量も格段に違う。英国一の大河はテムズ河であるが、コッツウォルズの低い丘陵地帯の湧き水に端を発し、丘陵や平野の中をゆったりと流れている。堤防もほとんど見受けない。ロンドン市中を流れるテムズ河も堤防などなく岸の岩壁に船がついている。金田一耕助ゆかりの真備町は今回の洪水で大きな被害に見舞われた。しかしベーカー街が床上浸水という話などは全く聞かない。およそ洪水のない国なのであろう。長い梅雨や台風による大雨もないので、年間を通じて流量はそれほど変化しないのであろう。

 TUNAMIという国際用語は、日本の津波から来ている。いわゆる海溝型地震で海底がハネ上り、海水が持ち上げられて海岸に押し寄せる現象である。津波という英語が最近まえ無かったことは、英国で津波に襲われたこともないのであおる。

 ホームズも博識であるが、ワトソンに言わせれば「地震学の知識ゼロ」となるだろう。

 

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